魅了する「おわら風の盆」の逸話と風情

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富山県富山市八尾(やつお)の地で、毎年9月1日から3日にかけて繰り広げられる「おわら風の盆」。
しっとりとした胡弓と三味線の音色に導かれるように、編み笠を目深に被った男女が優雅に舞う、幻想的なお祭りです。約300年の時を超えて受け継がれてきたこのお祭りには、様々な逸話が残されています。

今回は一般社団法人富山県民謡越中八尾おわら保存会の嘉藤稔さん、「Facebook美しい富山の景色ページ」管理人の木村宏さんに協力を得ておわらの歴史と夜には幻想的な空間が広がる街並みの昼の現場を紹介します。

ぜひ今年の「おわら風の盆」に足を運ぶきっかけのひとつになるとうれしいです!

おわら風の盆の歴史の変遷

嘉藤さん曰く「おわら」は元禄15年(1702)、八尾町が町建てに関する重要書類を取り戻したお祝いに、町民が三日三晩無礼講で町中を練り回ったのが始まりなんだそうです。

大正2年、高岡の伏木港修築完成と富直鉄道(富山-直江津間)が開通したことを記念に、一府八県連合共進会が堀川村(現富山市)において開催されました。
この当時まだおわらには決まった踊りがなく、会場内の演芸館において創作されたおわら踊りが披露されましたが、それは海をイメージしたものだったそう。

八尾の人々がこれを八尾にあった自分たちの踊りに改作したのが現在「旧踊り」と呼ばれているものです。

海をイメージしたおわらは一体どんな踊りだったんでしょうね。
 

大正10年に後藤桃水から誘いを受け、全国民謡大会に出場し、「おわら」はみごと全国1位を獲得。その名は全国的に知られるようになりました。

八尾の医師であり、後に初代おわら保存会長となる川崎順二は、昭和3年富山に来ていた小杉放庵を八尾に招き、本場のおわらを紹介し、おわら歌詞の創作を依頼しました。
その時、放庵が詠んだのが「八尾四季」です。

昭和4年、富山県から日本橋の三越で開催される富山の物産展への出演依頼が届き、川崎順二は日本舞踊家の若柳吉三郎に新しい踊りの振付をしてもらいました。小杉放庵の「八尾四季」に合わせ振付られたこの踊りが、現在男女の「新踊り」といわれているものです。

おわら風の盆は、単なる地域の祭りとしてだけではなく、芸術家たちの創造性によって洗練され、豊かな芸術的文化遺産となったんですね。
ちなみに川崎順二の旧宅は、八尾おわら資料館になっています。

それぞれの街が描き出す、風の盆の多彩な表情

おわら風の盆で伝統の踊りを披露する11支部(10の旧町+福島)。それぞれの個性が光る特徴と、夜の帳の中で繰り広げられる幻想的な光景を紹介します。

西新町

11支部の中で最も南に位置する支部で「新屋敷(しんにゃしき)」という通称も。腰を深く落としてから大きく伸び上がる所作の男踊り、繊細かつ優美な女踊りと相まっての町流しは見応えがあります。

東新町

諏訪町

東新町へ続く緩やかな坂道に雪洞(ぼんぼり)が並び、坂のまち風情を色濃く残している支部。
道の両脇を流れる用水の水音と狭い家並みにおわらの音曲が反響し、最高の舞台を演出します。

鏡町

かつては花街として賑わった町の支部。芸妓踊りの名残もあって、女踊りの艶と華やかさには定評があります。舞台踊りや輪踊りをおたや階段に座って鑑賞するスタイルが有名です。
 

上新町

上新町は旧町の中で一番道幅が広いので、比較的容易に町流しを楽しむことができる支部です。午後10時からはじまる「大輪踊り」は、観光客も輪に入って踊ることができます。

東町

東町は旧町でも古い町にある支部で、かつては旦那町とも呼ばれたほど大店が連なっていたと伝えられています。他支部と違う色合いの女性の衣装が特徴です。

西町

西町は東町と共に旧町の中心を担い、旦那町として栄華を極めた支部です。
昼間には、禅寺坂を下った先の禅寺橋で、荘厳な石垣を背景に繰り広げられる輪踊りに、ひときわ深い趣が感じられます。
公民館での踊りも素敵ですよ。

今町

旧町の古刹、聞名寺の正面に位置する今町。青年男女が互いに絡み合うように踊る男女混合踊りは、この支部が先駆けて取り入れたとされ、創作当時の様式を大切に守り続けています。

 

下新町

福島から旧町への入り口に位置する下新町。坂の中腹に鎮座する八幡社は、春季祭礼の曳山祭で曳山が奉納されるメイン会場となります。鮮やかな朱色を基調とした女性の浴衣が印象的です。

天満町

東西北の三方を川に囲まれた天満町では、おわらの唄の途中に「コラショット」という独特の囃子を入れ、音程を下げて力強く歌う「コクボ(川窪)おわら」が伝承されています。おわらの情緒に触れる最初の場所として、多くの人が訪れます。

福島

旧町から移り住んだ人々を中心に結成された、最も新しい福島。

歴史は浅いながらも、11支部の中で最大のおわら人口を誇ります。おわらの入口に近く、大人数で広い通りを埋め尽くす、迫力満点の福島独特の町流しは一見の価値ありです。

静寂の中で響き合う、魂の旋律

6月に行われる、各町の地方や唄い手が合同で練習する「温習会(おんしゅうかい)」を皮切りに、7月中旬にはおわら保存会による「おわら演技発表会」が行われ、9月1日~3日の「おわら風の盆」を迎えます。10月上旬の「月見のおわら」も良いのですが、やはり9月1日から3日の夜、特に真夜中が素敵なんです!

八尾の街は、夢か現か言葉では表現し尽くせないほどの幻想的な空気に包まれます。ぜひ八尾を訪れて五感で美しさを感じてください。

◾️写真提供◾️
Yokota Makotoさん
タニグチ マサヤさん
Kenji Horaguchiさん
広瀬和弘さん
山田文雄さん
山本英博さん
水上輝夫さん
長谷川進さん
Hiroshi Kimuraさん
takuya.tさん
※Facebookネームで統一しました

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